2015年8月2日「私たちのための救い主」（ルカ2章8-21節）

私たちは毎週日曜、それぞれが生活している場所から礼拝に集まってきます。それは羊飼いたちが、天使が告げた幼子に会いに出かけたことと重なります。羊飼いたちは自分たちが聞いたことを「主が知らせてくださったその出来事」と受け止めました。これは素晴らしいことです。私たちもまた、主が知らせてくださった救いの出来事を見るために、こうして礼拝をささげています。羊飼いたちを幼子のもとへと動かしたもの、そして私たちを礼拝へと導いているものは何でしょうか。その秘密は「主が知らせてくださったその出来事」にあります。

野宿しながら夜通し羊の群れの番をしていた羊飼いたちに、突然主の天使が近づき、主の栄光が周りを照らしました。その時彼らは非常に恐れました。なぜ恐れたのでしょうか。

イエス様の誕生は、神様が、罪がうずまくこの世界に来て下さったことを意味します。私たちは神様の前に何も隠すことは出来ません。神様は私たちの心の中にあるもの、恥ずかしい罪もすべてを御存じです。そのような神様が近づいてこられたので、羊飼いたちは非常に恐れました。神様の裁きに直面して恐れたからです。

皆さんは死についてどのように感じるでしょうか。死んだらどうなるか見たことはないけれど、きっと幸せになると考えて安心していますか。そんなふうに割り切れるでしょうか。そうではないと思います。むしろ死の向こうのことを考えると「恐れ」を覚えるのではないでしょうか。それはやがて聖なる神様の前に立たされることを感じ取っているからです。これは聖書によってはじめて正しく知ることが出来ることです。羊飼いたちはほんの短い間ですが、普段あまり意識していない、神様の前に立つという厳粛な経験をしました。そのために非常に恐れたのです。

しかし主の天使が告げたのは「恐れ」ではありませんでした。「恐れ」ではなく「喜び」、それも「民全体に与えられる大きな喜び」です。主の天使は、非常に恐れている羊飼いたちに「恐れるな」」と語り掛けました。なぜなら「今日、あなたがたのために救い主がお生まれになった」からです。この方こそ「主メシア」、主なるキリストです。私たちを神様の愛によって守り、治め、支配して下さるお方です。

「救い主」「主メシア」といいますが、そのお姿は人の世の常識からは考えられない貧しいさまでした。天使が告げた救い主は「布にくるまって飼い葉おけに寝かされている乳飲み子」です。これは羊飼いたちがベツレヘムに行ってイエス様を識別して見つけ出すための「しるし」ではありません。立派できれいな部屋で、ふかふかの布団に寝かされているのではなく家畜のための場所で、布にくるまって飼い葉おけに寝かされている幼子を見つける、それがあなたがたへのしるし、救い主に出会ったことの「しるし」です。

なぜ飼い葉桶に寝かされたのでしょうか。７節に「宿屋には彼らの泊まる場所がなかったから」とあります。旅先で、宿屋に場所がなかったからでした。出産しようとする人に誰も部屋を空けてくれる人はいなかったからです。そもそも皇帝アウグストゥスの人口調査の勅令によってヨセフは身重のマリアを連れての旅を強いられました。皇帝が費用を出してくれるわけではないでしょうし、事故があっても保証してくれるわけでもないでしょう。皇帝が王として支配を確立していく中で、人々がどのような目に遭うかが、ここには描かれています。力を得た者が人々を支配し、取り立て、労役や兵役に駆り出します。ひとりひとりのために配慮し、支え、慰めを与えるというのとは違う「力」による支配です。そのような人間と社会の姿が、「飼い葉桶の幼子」には映し出されています。

しかし同時に、時代の波に動かされ、「見るべき面影はなく　輝かしい風格も、好ましい容姿もない」（イザヤ５３：２）幼子イエス様のお姿には、私たち人間の罪を背負い、神様の赦しをもたらす救い主の愛が映し出されています。神を恐れて近づくことが出来ない人間の罪、ひとりひとりを大切にできない「力」による支配を生み出す人間の罪、これらを背負って下さるための地上の御生涯、十字架へ続く御生涯を、飼い葉桶から初めて下さっているお姿がここにあります。私たち人間は神の前に立つことの出来ないような自分の罪を、普段あまり意識していないかも知れません。しかし神様はそれを本当に深刻に考えて下さっています。そのためにご自分の大切な愛する独り子をこの地上に遣わしてくださいました。遣わされたイエス様は十字架に至るまで私たちの罪を背負ってくださいました。そのために飼い葉桶からの御生涯を初めて下さったのです。だからこのお方を私の救い主と信じて受け入れる時、確かな平和、神との平和を得て安らぐことが出来ます。確かな神様の赦し、愛を確信するのです。飼い葉桶の乳飲み子イエス様には、私たちを救って下さる神のすばらしさ・栄光が顕れています。ですから「布にくるまって飼い葉桶に寝ている乳飲み子を見つける」ことは、私たちにとって救い主と出会ったしるしです。

「主が知らせてくださったその出来事を見る」、それはまさに私たちの礼拝です。主が知らせてくださったとおりここに救いがある、と言って神をあがめ、賛美しながら、それぞれの生活に遣わされていきます。忙しい毎日、ほこりまみれになりながら生活していた羊飼いたちは、私たちでもあります。これからも一緒に、主が知らせてくださったその出来事を見ながら歩んでいきましょう。