2015年8月23日「救いの到来を告げる声」（ルカ3章1-6節）

イエス様が救い主として人々の前で活動を始められたことが記される前に、洗礼者ヨハネの活動が記されます。ヨハネの役割は、いよいよ救い主としての働きを始められるイエス様に人々の心を向けさせることです。救い主がすぐそこに来ておられるから、悔い改めて罪の赦しの洗礼を受けて心備えをするように勧めたのです。ヨハネの働きは荒野で神の言葉が彼に降ったことから始まります。神の働きによって始まったものです。ルカ福音書はヨハネの誕生とイエス様の誕生を織り交ぜながら筆を進めてきました。私たち自身がヨハネのメッセージによってイエス様をその心にお迎えする道備えを与えられたいと思います。

ヨハネが住んでいた「荒野」はごつごつして渇いた場所、とても人が住むような環境ではありません。その荒野で神様の言葉がヨハネに降りました。「荒野」という言葉はここでは特別な意味を持ちます。それは私たちの住む社会の状況、それを生み出すひとりひとりの心の状態を表現する言葉でもあるからです。争い、暴力、抑圧、差別、不正等、人間社会は「荒野」と言う言葉がぴったりの面を持っています。１－２節には当時の政治的指導者や祭司（宗教的指導者）の名前が記されています。当時ユダヤを治めていたポンティオ・ピラトは残忍な人物でしたし、ヘロデ（ヘロデ・アンティパス）は洗礼者ヨハネを捕えて殺害した人物です。これだけ見てもこれらの指導者たちがつくる当時の社会もまた、「荒野」であったといえるでしょう。しかし「荒野」のような社会をつくるのはそこに生きる一人一人です。おのおのがその心に「荒野」をもっているのではないでしょうか。妬み、憎しみ、貪欲などが心の「荒野」を作り出します。このような荒野のままでは「神の救いを見る」ことは出来ません。神の救いに至る道は山や谷にさえぎられ、ごつごつした岩が転がりゆがんでいます。ですから神の救いに至る道は、山と丘は低くされ、曲がった道はまっすぐにされ、でこぼこの道は平らにされなければなりません。そのために「荒野で」ヨハネに神の言葉が降ったのです。私たちがかかえる「荒野」に神様の救いの御手が降ったのです。

では救いに至る道筋が整えられるのはどのようにしてなのでしょうか。それは罪が赦されることによってです。私たちが神の救いを見ることが出来ない原因である罪が赦されて、初めて私たちは神様のもとに憩うことができます。この場合の罪は個々の罪ではなく、個々の罪を生み出す根源にある罪です。それは人間が神様なしに生きようとしていること、神に背を向けて生きていることです。人間の心の中に「荒野」があり、社会は「荒野」と言ってもいい所だ、と言えば、多くの方々が共感されるのではないでしょうか。聖書はその根源にあるのは人間が神から離れて生きていることなのだと語ります。

４～６節はイザヤ書４０章３～５節の引用です。この背景には旧約聖書に記された神の民イスラエルの歴史があります。その歴史は神様との関わりの歴史です。イスラエルの民は神様との豊かな関わりの中で育まれてきました。にもかかわらず神様よりも周囲の大国の力を頼みとしました。預言者たちは繰り返し神様に信頼しなさいと語りましたが、彼らはその言葉に耳を傾けず偶像礼拝を取り入れ、武力や経済力を頼みとし、大国にすり寄って生きようとしました。神様に背を向けて生きたのです。そのかたくなさのゆえにとうとう国は亡び、多くの人々が捕囚となって連れ去られました。イザヤ書４０章はその捕囚からの解放を語る箇所です。その冒頭には「慰めよ、私の民を慰めよとあなたたちの神は言われる」（イザヤ４０：１）とあります。イザヤが預言者として立てられた時、神様はイザヤに神の言葉を語るよう命じますが「この民の心をかたくなにし　耳を鈍く、目を暗くせよ。目で見ることなく、耳で聞くことなく　その心で理解することなく　悔い改めていやされることのないために」（イザヤ６：１０）と言われました。このときイザヤは「主よ、いつまででしょうか」と尋ねました。それから神様の裁きを経てようやく訪れる捕囚からの解放を語る４０章で、「慰めよ」という神の言葉を語ることが許されたのです。洗礼者ヨハネはイザヤ書４０章の御言葉を引用して、イエス様がおいでになられたこのときこそ、このイザヤの預言が成就するときだと語りました。捕囚から解放されて故郷へ帰る荒野の道が整えられるように、私たちの心の荒野に神様の救いへの道が整えられます。ルカ３：１－２に登場するポンティオ・ピラト、ヘロデ、アンナス、カイアファ、いずれもイエス様の十字架に深く関与する人たちです。ここにはすでにイエス様の十字架へ向かう御生涯が暗示されています。主イエスの十字架と復活によって「荒野」に対する勝利が確定しています。

神様に対して閉ざされたかたくなな心はイエス様の十字架と復活によって打ち砕かれます。そのようにしてイエス様は神の救いへの道を切り開きまっすぐに整えてくださいました。私たちはその道を通って神の救いを見るのです。