日本キリスト改革派豊明教会

2015年9月20日「荒野の誘惑」（ルカ4章1-13節）

洗礼をお受けになったイエス様は、宣教活動を始める前に、荒野で悪魔の誘惑をお受けになりました。イエス様が誘惑をお受けになり、これに打ち勝って下さったことは、私たちにとってどのような意味があるのでしょうか。まずイエス様が誘惑を誘惑として感じるお方であられるということを聖書から示されます。まことの神であられるお方が、私たちのために本当に人となられたからです。「この大祭司は、わたしたちの弱さに同情できない方ではなく、罪を犯されなかったが、あらゆる点において、わたしたちと同様に試練に遭われたのです」（ヘブライ４：１５）。ですから私たちが試練・試み・誘惑に遭うとき、イエス様もその苦しみを知っておられることを覚えなければなりません。

悪魔はイエス様に「もし神の子なら」（３節、９節）と言います。神の子ならできるはずだからこうすればいい、という言い方です。石をパンに変えたり、国々の一切の権力と繁栄を手に入れたり、神殿の屋根から飛び降りても大丈夫であること、これらはイエス様でなければできないことです。その意味で、この誘惑は神の子イエス様だから誘惑になることであり、イエス様が神の子として戦って下さったことに意味があります。同時にこれらの誘惑の本質は、私たちも常にさらされる誘惑でもあります。

第一の誘惑は激しい空腹を覚えておられるときに、石をパンに変えよというものです。これに対してイエス様は「人はパンだけで生きるのではない」という申命記８章３節の御言葉をもって悪魔を退けられました。人は神様の御言葉すなわち神の御意志によって生きるのです。困窮の時に神様はおられるのかと神への疑念を抱く、そのような誘惑の中で、あくまでも神様に信頼して生きる道をイエス様は示して下さいました。同時にイエス様はその奇跡を行う御力を、私たちの救いのために使うのであって、ご自分の食欲を満たすために使うのではないことも示して下さいました。

第二の誘惑は、この世の権力と繁栄を手に入れるために悪魔に屈服してひざをかがめて拝むというものです。この世で権力と繁栄を得るためにはきれいごとを言っていたのではらちが明かない、あくどいこともしなければならない。実際そういう人たちがいい思いをしているではないか。このような感覚は私たちにも分かるのではないでしょうか。イエス様はそのような誘いを断り、生ける神のみを拝む道を貫かれました。今日、生けるまことの神のみを神として礼拝して従う時、私たちの人生は確かなものとなります。それから悪魔はすべての国々の権力と繁栄について「それはわたしに任されていて」と言っています（6節）。つまり悪魔は誰よりも上にいてすべてを支配しているのではない、ということです。悪魔ではないほかの誰かがすべてを支配していて、悪魔もその誰かにはかなわない、ということです。その「誰か」こそ生けるまことの神様です。神様がすべてを支配しておられ、やがて権力も繁栄も悪魔から取り上げてキリストにお渡しになるのです。だからこの世は悪魔が支配しているように見えても、決してそのまま終わるのではありません。悪魔の支配は打ち砕かれ、神様の勝利が明らかにされる時が来るのです。私たちは悪から救われるのです。その勝利をイエス様はここで戦い取って下さっているのです。

第三の誘惑は、聖書の言葉を用いての誘惑でした。悪魔は詩篇９１：１１～１２を引用して「あなたの足が石に打ち当たることのないように、天使たちは手であなたを支える」と書いてあるのだから飛び降りてみよ、ということです。イエス様は「あなたの神である主を試してはならない」（申命記６：１６）という御言葉をもってこの誘惑を退けられました。悪魔が勧めたのは無茶なことをして神様が守って下さるかどうかを試すことです。神様ならこうしてくださるはずだ、このようにして助けて下さるはずだ、そうでなければ神様として認めることができないという態度です。これは神様の愛を試すことです。人間同士でも、相手を試すときにはすでに相手の愛を疑っているのです。神様への信頼を壊すように私たちを誘う誘惑です。

ここには３つの誘惑がありますが、この３つに共通しているのは、神様に対する疑いを生じさせ、信頼関係が揺らぐように誘うことです。困窮、権力と繁栄を用いて、最後には詩編の言葉まで使って神を試させようとする、それが悪魔の誘惑です。私たち人間は弱いものです。自分の決意で勝てるわけではありません。私たちの弱さを知っておられ同情して下さるイエス様に頼るほかありません。「試みにあわせず、悪から救い出してください」、そう祈ってイエス様のところに逃げ込めばよいのです。そこには私たちのためにあらゆる誘惑をお受けになってこれに打ち勝って下さった救い主イエス様がおられます。誘惑に負けてしまった時でさえ、私たちはイエス様の所に逃れることによって立ち直らせていただけるのです。イエス様が悪魔の言う事を聞き、石をパンに変え、悪魔を礼拝し、飛び降りるということは、イエス様が救い主としてのお働きを放棄することを意味します。そうなれば悪魔が勝利してしまいます。そうならないで私たちが悪魔の手から救われるために、イエス様はすべての誘惑に打ち勝って下さいました。それはイエス様にとって決して楽なものではありませんでした。誘惑を誘惑として感じるイエス様にとってとても激しい闘いでした。そして私たちを悪の手から救い出して下さったのです。そのキリストの勝利の中で、私たちは悪魔の誘惑に対して希望をもって戦い続けることができます。その道をイエス様が切り開いて下さったからです。