2015年11月8日「主よ、みこころならば」（ルカ5章12-16節）
この箇所には全身重い皮膚病にかかった人がイエス様に癒していただいたことが記されています。「この人はイエスを見てひれ伏し、『主よ、御心ならば、わたしを清くすることがおできになります』と願った」（12節）とあります。
この物語の背景になっている「重い皮膚病」に関する旧約聖書の規定がレビ記13～14章に記されています。しかしそこに出て来る「重い皮膚病」が具体的にどんな病気なのかはよくわかりません。当時ユダヤではこの規定により、「重い皮膚病」にかかった人は宗教的な意味で「汚れている」とみなされました。そして「重い皮膚病にかかっている患者は、衣服を裂き、髪をほどき、口ひげを覆い、『わたしは汚れた者です。汚れた者です』と呼ばわらなければならない。この症状があるかぎり、その人は汚れている。その人は独りで宿営の外に住まなければならない」（レビ記13章45～46節）とされていました。ですから重い皮膚病にかかった人は町の外に出なければなりませんでした。家族と共に生活することが許されず、社会から隔離されてしまうという過酷な苦しみを味わったのです。しかし治った時には祭司に体を見せ「清い」と判断してもらい、定められた手続きをしたうえで社会生活に復帰することができたのです。ですからこの人にとって重い皮膚病を癒していただくことは、汚れから清められること、隔離された生活から元の社会生活に復帰することを意味したのです。重い皮膚病にかかった人が「清くすることがおできになります」と言っていることや、イエス様が「清くなれ」とおっしゃっていること、重い皮膚病が去ったあとイエス様がこの人に、祭司に体を見せ、献げ物をし、人々に証明するように指示しておられるのはそのためです。
この人は「癒してください」とか「清めてください」ではなく「主よ、御心ならば、わたしを清くすることができます」と言いました。どうしてこのような表現をしたのでしょうか。「御心ならば」といいますが、これは「もしよろしければ、・・してくださいますか？」ということではありません。だめなら仕方がないが、もしその気があるならしてもらえたらありがたい、というような願いではないのです。清くしていただけるかどうかはこの人にとって生きるか死ぬかの問題です。だからこの人は真剣に願い、イエス様に望みを託してひれ伏して言っているのです。イエス様にはできる、このお方の御心でありさえすれば自分は清くしていただける、他の誰かに頼んでも意味がない、自分をこの絶望から救うことができるのはこのお方だけ、本当に力を持っておられるのはこのお方だけであるということを信じていたからこそ、「主よ、御心ならば」と言っているのです。自分を清めるかどうかはこのお方次第である。自分にはそのことについてイエス様にあれこれ指図する資格などない、それに対して意見する資格はない。だからただこのお方にお委ねするほかはない。ただあなたが意志してくださりさえすれば、わたしは清くされます、そのあなたの御心にお委ねします、と言っているのです。自分のすべてをイエス様に委ねている信仰の告白ということができます。ここにイエス様は信仰を見て下さったのです。
全力でぶつかってきたこの人に、イエス様は清くなることが自分の意志であると言って下さいました。この人は病そのものと社会から隔離された生活から救われました。この人にとって共同体から引き離された生活はとてもつらかったのです。しかしこの人が何よりもつらかったのは、神の民の礼拝に参加することができなかったことでした。神様との交わりの場である礼拝に出ることを許されないということは、神様との交わりから引き離されることを意味します。この人にとって一番の願いは、神様から引き離されたところから救われて、神様とのつながりを回復していただくことでした。この人は神様から遠ざけられるという絶望からの救いを求めたのです。しかもその救いについてイエス様にすべてをお委ねしたのです。このようにイエス様の御心に自分のすべてを委ねたこの人に、イエス様は手を伸ばして触れてくださいました。それは、神様とこの人の間をつないで下さったことを意味します。引き離された神とのきずなを結びなおしてくださったのです。そして、これこそが重い皮膚病が癒され、清くされることの意味なのです。神様との結びつきを回復していただくことが私たちにとっても救いとなるのです。重い皮膚病の人が癒されることは、神様との絆を回復することを意味していたのです。
今日、私たちは主日ごとに礼拝をささげていますが、それはイエス様の救いの恵みがあって初めて成り立つことです。私たちは罪のために神様の前に立つことができない者でした。神の民の礼拝、永遠の天の御国へとつながる礼拝に出て、神様の前に立つことはできなかったのです。その私たちのためにイエス様が十字架と復活の贖いの業をなして下さり、私たちを神様と結び付けて下さいました。このイエス様の恵みによって私たちは神様との永遠のきずなを与えられ、その恵みのゆえに礼拝において神の前に立つことができるようにされています。重い皮膚病の人の癒しは、このイエス様の恵みを表しています。神との関係が回復され、神との永遠のきずなを与えられ、「主よと呼べる幸いを、私たちは与えられているのです。