2016年4月3日「神の知恵を受け入れる」（ルカ7章24-35節）
この箇所には、洗礼者ヨハネの使いが帰った後、イエス様が群衆にお語りになった言葉が記されています。まずイエス様は洗礼者ヨハネを「預言者以上の者」（26節）、さらに「およそ女から生まれた者のうち、ヨハネより偉大な者はいない」（28節）と言ってヨハネの偉大さをお語りになりました。ヨハネの登場は、27節の背景にある旧約聖書（マラキ書3:1）に予告されています。さらにヨハネは直接イエス様にお会いし、救い主を指し示しました。新約時代が始まる最初の所に立っていた預言者です。これらのことからヨハネは、それまでの預言者と違う重要な位置に立っていたことが分かります。けれどもイエス様のおっしゃりたいことは、単にヨハネに賛辞を贈ることではありません。むしろその後の事を語るためにヨハネをおほめになったのです。
それは「しかし、神の国で最も小さな者でも、彼よりは偉大である」（28節後半）ということです。ここでいう「神の国」は、主イエス・キリストが地上に来られ、十字架と復活によってもたらされる神の救いの御支配、新約時代を表します。主イエスに結ばれた群れ、教会ということもできます。ですから「神の国で最も小さな者」は、主イエス・キリストを救い主と信じる信仰者一人一人であるということができます。キリストに結ばれた信仰者は、「およそ女から生まれた者」のうち最も偉大と言われたヨハネよりも、もっと偉大な者である、ということです。つまりそれは、主イエス・キリストの十字架と復活による救いがどれほど偉大なものか、ということを表しているのです。主イエス・キリストによる罪の赦しと永遠の生命、この素晴らしい救いを受け入れること、これこそが「私たちに対する神の御心」です。
イエス様はここで、ファリサイ派の人々や律法の専門家たちが、ヨハネから洗礼を受けないで、自分に対する神の御心を拒んだことを、悲しみをもって指摘しておられます。
ヨハネは神様に背を向けている人間の罪、神様の審判が迫っていることを語り、悔い改めを迫りました。少しもごまかすことなく、容赦なく人間の罪を明らかに語りました。その厳しさ、人間の罪を悲しむ神の悲しみは、ヨハネの生活態度全体に表れていました。しかし人々は、「洗礼者ヨハネが来て、パンも食べずぶどう酒も飲まずにいると」、「あれは悪霊に取りつかれている」と言ってヨハネを批判しました（33節）。私たち人間が神の前に罪人であるということを受け入れるのは簡単なことではありません。教会に来て「人は皆罪人です」と言われて素直に聞けなかったという経験をお持ちの方もおられると思います。私たち人間の罪に対する神様の悲しみを理解することは、私たちには難しいのです。それは遊びの中で「葬式の歌を歌ったのに、泣いてくれなかった」（32節）子どもたちに似ています。神様の、人間の罪に対する悲しみの歌を聞いても、それに合わせて歌う、神の悲しみを共有することができない人間の姿がここで描かれています。
今度は逆に神様が喜びの歌を歌い、笛を吹いても、それに合わせて一緒に喜び踊ることをしない人間の姿が描かれます。神様の喜びを共にすることをしないのです。それが「笛を吹いたのに、踊ってくれなかった」（32節）、「人の子（イエス様）が来て、飲み食いすると、『見ろ、大食漢で大酒飲みだ。徴税人や罪人の仲間だ』と言う」（34節）という言葉で表現されています。イエス様は徴税人や罪人（と呼ばれた人たち）とも食卓を共にしました。ここで表現されているのは喜びの祝宴です。これまで神様から離れていた人たちの所へ救い主キリストが来て下さったことを喜ぶ宴です。神様の愛を知り、救われた喜びをこのような飲み食いで表現しているのです。主に救われ、罪と死から自由にされた喜びの歌です。ファリサイ派の人たちや律法の専門家たちは、この喜びを理解しませんでした。ちょうど、放蕩の限りを尽くした弟の帰還を祝う父の喜びを拒んだ兄息子と同じです（ルカ１５：２８）。ファリサイ派の人たちは「あのような汚れた者達と食事を共にするなど容認できない、という気持ちだったのです。
キリストによる救いは全く神様の恵みと愛によるものです。人間の側が何か功徳を積んだり修行を積んで立派な人間になって救われるということではありません。ただ主イエス・キリストの十字架と復活に示された愛を受け入れ、より頼めばよいのです。神の愛を受け入れた時、私たちも神を愛し、人を愛する者に変えられるのです。しかしその「神の御心」を素直に受け入れるのも、簡単なことではありません。ただ信じれば救われる、では物足りないような気がして、何か立派なことをする必要があるように思ってしまう心が、人間の中にはあるからです。
神の審判と罪を語り悔い改めを迫るヨハネの説教と、罪人や徴税人と祝宴を楽しむイエス様の在り方とは決して矛盾しません。私たちはそのままでは神の審判に耐えられない罪人です。しかしその私たちを神様が顧み、愛して下さり、ご自身の大切なイエス様を私たちのために遣わして下さって十字架と復活による救いを与えてくださいました。罪と死から解放して下さって、永遠の救いを与えてくださったのです。イエス様が一緒にいてくださる、そこに神の愛の御支配が実現したのですから、喜びの祝宴はそれにふさわしいものです。こうして私たちと悲しみと喜びを共にして下さる神様に導かれて生きる私たちは、神の知恵の正しさを証しする者とされているのです。
私たちは何を見に礼拝に来たのでしょうか。それは永遠に確かな救い主イエス・キリストです。