2016年5月15日「キリストの家族」（ルカ8章19-21節）
宣教の働きを続けるイエス様のところに母マリアと兄弟たちが会いに来ましたが、群衆のために近づくことが出来ませんでした。そこでイエス様のもとに家族の来訪が伝えられました。普通に考えれば、イエス様の家族が来たと言うので、周囲の人たちから歓迎され、イエス様の所へ案内されて家族の再会を喜ぶ、という場面が予想されると思います。ところがイエス様はこのとき「わたしの母、わたしの兄弟とは、神の言葉を聞いて行う人たちのことである」（２１節）とおっしゃったのです。
せっかく家族が会いに来たのに何かそっけない言葉のように聞こえます。けれども、ルカ福音書2章にはイエス様の少年時代の出来事が記されていて、５１節に「それから、イエスは一緒に下って行き、ナザレに帰り、両親に仕えてお暮しになった」とあるように、イエス様が実際の家族を愛しておられたことが分かります。父ヨセフは早く亡くなったのではないかと言われますが、きっとイエス様は母マリアを助け、兄弟たちを兄として助けたのではないかと思います。その事を踏まえて２１節を読みたいと思います。
イエス様は「わたしの母、兄弟」は「神の言葉を聞いて行う人のこと」とだとおっしゃいました。「神の言葉を聞いて行う」というと、何か良いことを行う、というイメージを持ちやすいと思います。しかし種まきのたとえで示されたのは、むしろ神様が、良い土地とは言えないような私たちの心に御言葉の種をまき続けて、石や茨を取り除いて耕し、神様の言葉を聞いて実を結ぶ良い土地に変えて下さる、そのような神様の恵みを信じることでした。
聖書の言葉には何の力もなく、聞いても意味がないなどと思わないで、神様が必ず実を結ばせてくださると信じて日々の生活に取り組むことが求められました。そのように神の御言葉に留まり続けることが、「立派な善い心で御言葉を聞き、よく守り、忍耐して実を結ぶ」ということなのです。
実を結ぶ力、生命力は「土地」である私たちの心にあるのではなく、種である神の御言葉に、もっと言えば御言葉を用いて救いに入れてくださる神様にあります。神の言葉への信頼が御言葉を語ること（説教）においても、聞くことにおいても大切なのです。神様の言葉を信じ続ける信仰は、試練によって絶えず揺さぶられます。だからなお一層注意して聞きなさい、と言われるのです。
この時イエス様の周囲にはガリラヤの漁師であったペトロをはじめ弟子たち、７つの悪霊を追い出していただいたマリアなど８章１－３節に出て来た婦人達がいました。イエス様によって悪霊から解放され、あるいはイエス様に召し出されて、これまでの生活を捨ててイエス様に従っていた人たちです。イエス様は彼らを指して「わたしの母、わたしの兄弟」と呼ばれました。イエス様はここで御自分に従って来た人たちを、「神の言葉を聞いて行う人たち」、「わたしの母、兄弟」として愛しておられると宣言なさったのです。ですからイエス様を信じて従おうとする私たちひとりひとりを、イエス様はご自分の母、兄弟として愛してくださっているのです。
「神の御言葉を聞いて行う人たち」は、主イエス・キリストの救いにあずかり、神の御言葉に留まる人たちのことです。イエス様の母、兄弟ですから、イエス様に結ばれた神の家族と言うことができます。主イエス・キリストを救い主と信じて洗礼を受けるということは、この神の家族の一員になることです。神の家族のきずなはこの世で終わるものではありません。やがて天の御国で完成された愛をもって復活の命を生き続けます。お互いに神の家族として一緒に神を喜び神の栄光をあらわしながら新しい命を生きるのです。イエス様はこのような、死によっても失われない神の御国に永遠に生きる幸いがあることを、母や兄弟たちにも伝えたかったのです。それはイエス様が家族を愛しておられたからです。
ヨハネによる福音書７章３～９節にはイエス様の兄弟たちが出てきますが５節には「兄弟たちも、イエスを信じていなかったのである」と記されています。しかしイエス様の十字架と復活、昇天を経た使徒言行録１章１３－１４節には、イエス様の母マリアと兄弟たちが、使徒たちや婦人達と一緒に祈っている場面が出てきます。イエス様に会いに来た母マリアと兄弟たちは、イエス様の復活後には、神の家族に加えられていたことが分かります。
その後使徒言行録２章には弟子たちに聖霊が降り、復活の主を証しする福音宣教が始まったことが記されています。今日はこの出来事を記念するペンテコステ礼拝をささげています。そして使徒言行録１５章１３節には、主の兄弟ヤコブが、信仰的な言葉で会議を導いている姿が描かれています。イエス様の兄弟が教会の指導者となっているのです。すばらしい神様の救いの御業です。
主イエス・キリストに結ばれた人は神の子とされ、神様を「アッバ、父よ」と親しく呼び、天の御国を受け継ぐ者とされます（ローマ８：１５～１７）。神の家族とされた恵みです。この恵みの中へ私たちを招き入れた神様の御業、聖霊の御業は、今も続けられています。だからこそ今ここに礼拝をささげる教会があり、私たちがここにいるのです。ペンテコステを記念する今、主の御言葉に導かれて、聖霊の御業をご一緒に見つめたいと思います。