2016年5月22日「嵐の中で支える神」（ルカ8章22-25節）

イエス様を信じて歩む信仰者の人生、そして教会の歩みは、イエス様が一緒に乗っておられる舟の旅にたとえることができます。私たちは向こう岸を目指して舟を漕ぎ進みます。イエス様が一緒に乗っておられる舟ですけれども、揺れないわけではなく、突然の嵐に見舞われ、激しく揺さぶられることもあります。

この箇所で弟子たちは、イエス様を乗せて向こう岸に向けて船出しました。そして「渡って行くうちに、イエスは眠ってしまわれた」（２３節）のです。イエス様はお忙しい宣教の業にお疲れになられたのでしょう。やがてこの舟を嵐が襲います。舟は嵐に大きく揺さぶられ、水をかぶり、危なくなり、そして沈みそうになりました。しかしイエス様は眠っておられたのです。嵐の中でも眠っておられるイエス様のお姿は、父なる神を深く信頼して平安に眠るイエス様を示しています。

しかし弟子たちにとっては、とても平安でいられる状況ではありませんでした。彼らは水をかぶりながらも沈没・転覆を免れようと必死に漕いだり水をかき出したりしたことでしょう。しかしどうにも自分達の力の及ぶ状況ではなくなったのだと思われます。彼らはイエス様を起こして叫びました。「先生、先生、おぼれそうです」（２４節）。「おぼれそうです」と訳された言葉は「滅びかけている」という意味です。舟の板一枚、その向こうはまさに死の世界です。どんなに恐ろしかったかと思います。けれどもイエス様に叫ぶことが出来たことは幸いでした。イエス様が起き上がり風と荒波とをお叱りになると、嵐は静まり、凪になったのです。

嵐を静めたあと、イエス様は弟子たちに「あなたがたの信仰はどこにあるのか」（２５節）とおっしゃいました。このような強い表現で言えるのは、それだけの信頼関係のある人同士、あるいはこの言葉で相手をきちんと導く力のある人でしょう。誰かがこのような言葉で私たち導き励ましてくれるなら、それはとても幸いなことだと思います。イエス様はこの言葉で私たちの信仰を、あるべきところに引き戻してくださいます。私たちが嵐の中でおぼれそうだと思っている時に、「あなたがたの信仰はどこにあるのか」と語り掛けて、主が共にいてくださるから決しておぼれることはない、という信仰に引き戻してくださり、荒海を渡る人生の旅路、教会の歩みを、励まし支え続けてくださるのです。

弟子たちは主の奇跡と御言葉によって信仰の目が開かれ、あるべきところへと導かれていきました。弟子たちにとって今にも自分達を飲み込もうとしている嵐の海、それが目の前の現実でした。しかしその風、波、自分たちを引きずり込もうとする荒海も、イエス様の支配下にあることに目を開かれていきました。

さらに本当に恐れるべきは嵐ではなく、風も波も従わせることの出来るイエス様である、ということにも目が開かれて行きました。弟子たちは恐れ驚いて、「いったい、この方はどなたなのだろう」と互いに言い合いました。イエス様はいったいどなたなのか、という問いは、ルカ福音書では、この後いくつかの奇跡の記事を経て、９章２０節のペトロの信仰告白、「神からのメシアです」につながっていきます。私たちもルカ福音書を読みながら、イエス様への信仰告白へと導かれていくのです。

ところで、この時の弟子たちは嵐を静めていただきました。イエス様は嵐を静めることが出来るお方です。しかし私たちの場合は祈ったからといって必ずしも嵐がなくなるわけではありません。多くの場合、相変わらず風は吹き荒れ、荒波が襲って来て、水をかぶりながらでも、人生という舟旅をこぎ続けなければならないのです。沈みそうだと思われるようなぎりぎりのところを歩み続けることもありますし、生涯背負い続けなければならない問題もあります。そのような私たちのことを、イエス様はご存じなのでしょうか。

イエス様は嵐の中を歩み続ける私たちのことを、誰よりもよく分かっておられます。やがてイエス様は十字架におかかりになりました。この時イエス様は人々から見捨てられ、ユダには裏切られました。弟子たちも逃げてしまい、ペトロは主を否定しました。その中でイエス様は十字架上で死なれたのです。イエス様は、十字架から降りてしまう、あるいは天の軍勢を遣わして十字架の死を回避し、敵を打ち負かす、そういう奇跡を起こすことはなさいませんでした。私たちは心のどこかで、奇跡が起こればいいのに、奇跡的な解決があればよいのに、という思いを内に秘めているのではないかと思います。そういう私たちの思いをイエス様はよく御存じです。イエス様はゲッセマネで、みこころならばこの杯を取り除いてください、と祈られました。そして十字架の上で「わが神、わが神、なぜわたしをお見捨てになったのですか」と叫ばれたのです。十字架では奇跡は起きませんでした。十字架というもっとも悲惨な嵐の中で、主はこの叫びを上げられました。「イエス様は奇跡で嵐をなくせるからいい」、ということはではありません。イエス様は嵐の中で叫ぶ私たちの叫びを、御自身のものとして引き受けてくださっています。それだけではありません。「おぼれそうです（滅びそうです）」と弟子たちは叫びましたが、イエス様は陰府にくだり、私たちの「滅び（死）」までも背負ってくださったのです。嵐の中で何の奇跡も起こらないと思われる中を歩き続ける私たちのことを、イエス様は誰よりも良く知っておられ、どれほど深く支えてくださっているかがここに示されます。

このように十字架に死んで陰府にくだられたイエス様はそこから復活されました。私たちの「滅び（死）」に打ち勝って永遠の命を私たちに与えてくださいました。だから私たちは決して滅びることはありません。おぼれそうに見えてもおぼれることはありません。

嵐の中を進む私たちの人生という舟、教会という舟にイエス様が乗っておられ、眠っておられるならば、十字架と復活の主が平安の内に眠っておられるのですから、舟は決して沈むことはありません。天の御国に向かってこの世を進む私たちの船旅は「大丈夫」、なのです。