2016年6月26日「かけがえのない出会い」（ルカ19章1-10節）

今日は、イエス様と出会ったザアカイという人のことをお話ししたいと思います。ザアカイはエリコの町で徴税人でした。「徴税人」は当時ユダヤを支配していたローマ帝国のための税金を集める仕事です。自分達を支配する外国のために税金を取るのですから、町の人たちからは嫌われていました。しかも徴税人の多くは決められた金額より多く取り立てて、差額を自分の懐に入れていましたから、周りからは、泥棒で罪人の代表のように思われていました。ザアカイはその徴税人の頭で金持ちでした。ですから彼は町の嫌われ者でした。律法学者やファリサイ人と言われる指導者たちは、ザアカイのような人は相手にしませんし、一緒に食事をするようなことは絶対にしませんでした。

そんなザアカイが住むエリコの町に、あの有名なイエス様がやってきました。聞くところによると、イエスという先生は、ザアカイのような徴税人とも話をして、食事も一緒にするというのです。一体イエスとはどんな人なのだろう。ザアカイはイエス様がどんな人か見たいと思いました。そう思って彼は外へ出かけました。

通りへ出てみると、すでにイエス様の周りには大勢の群衆が集まっていました。イエス様を見たいと思って近づいても、群衆の背中しか見えません。彼は背が低かったのです。それに日頃威張ってお金を無理やり取り上げるザアカイのためにどいてくれる人など誰もいません。それでも彼はあきらめませんでした。彼はイエス様を見るために、走って先回りし、いちじく桑の木に登りました。大の大人が木に登って枝と枝の間からイエス様の方を見ています。町の人たちが見つけたら、何と言うでしょう。エリコの町の徴税人の頭が、恥ずかしげもなく木に登ってこちらを見ている、なんとみっともないことか、と言ってあざわらったでしょう。でもザアカイはイエス様を見たい一心で必死でした。

その時、イエス様が上を見上げてこう言われました。「ザアカイ、急いで降りてきなさい。今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい」。ザアカイは急いで降りて来て、喜んでイエス様を自分の家に迎えました。これはザアカイにとっても周囲の人々にとっても、思いもよらないことでした。ザアカイは、イエス様がどんな人か見たいと強く思っていましたが、それ以上のことは考えていませんでした。もしここで誰かがザアカイに、「あなたはイエス様に自分の家に来て欲しいのか？」と尋ねられたら、彼はきっと「そんなつもりはない」と答えたでしょう。しかしイエス様の方では、彼の家に泊まることに決めておられたのです。

ザアカイは徴税人の頭として権力をかさにして町の人たちから好きなようにお金を取り立てていました。そうやって金持ちになり、人々からどんなに嫌われても物質的には満たされ、欲しい物は何でも手に入ったことでしょう。けれども彼の心は少しも満たされてはいませんでした。だれも自分のことを相手にしてはくれないのです。親身になって自分の悩みを聞いてくれる友達もいませんでした。このような生き方を続けるほど、彼と町の人々との隔たりは大きくなり、ザアカイは孤独を深めていきました。彼の気付かないうちに、その心は飢え渇き、心の奥底では救いを求めるようになっていたのです。そんな彼のことを、イエス様が訪ねてくださったのです。

ザアカイはもともとここまで願っていたわけではなかったと思います。けれども心の底では願っていたのではないでしょうか。彼があきらめずに木に登ってまでイエス様を見ようとしたのも、イエス様から名前を呼ばれた時、急いで降りて来て、喜んでイエス様をお迎えしたのも、ザアカイが、イエス様が自分を訪ねて来てくださることを、本当は心の底では望んでいたからです。

ザアカイは喜んでイエス様を自分の家に迎え入れました。そして一緒に喜びの食事を楽しんだことと思います。ザアカイは立ち上がって、財産の半分を貧しい人々に施し、まただまし取ったお金を４倍にして返すと言ったのです。罪滅ぼしのためではありません。イエス様に認めてもらうためでもありません。嬉しいからです。イエス様が自分のところに来て下さったことが嬉しくて、もう不正なことをして人を苦しめたり、私腹を肥やして生きることが、自分にとって必要ではなくなったからです。

イエス様はあなた自身のことを誰よりも知っておられ、私たちの心に寄り添ってくださることのできるお方です。そこにある空しさや悲しみを背負ってくださるお方です。永遠に私たちと一緒にいて支えてくださるお方です。彼が出会ったイエス様はこのような救い主、本当の神様でした。ザアカイはイエス様と出会ってすっかりその生き方が変わりました。これまで顧みなかった貧しい人々のことや、自分の不正によって被害を受けた人たちのことを考えるようになりました。イエス様との出会いが、彼の人生を変えるかけがえのない出会いとなったのです。

イエス様は、私たち一人一人のことを知っておられ、私たちの名を呼び、「今日は、ぜひあなたの家に泊まりたい（泊まることになっている）」とおっしゃっています。このお方は、私たちがイエス様を知る前から、私たちのことを知っておられ、私たちの人生を、背負おうとしておられます。イエス様はザアカイの物語によって、私たちの人生を永遠の希望へと変えるかけがえのない出会いへと、あなたを招いておられるのです。

最後に詩編をお読みします。

「わたしの舌がまだひと言も語らぬさきに

主よ、あなたはすべてを知っておられる。

前からも後ろからもわたしを囲み

御手をわたしの上に置いていてくださる」

（詩編１３９：４～５）

イエス様との出会いは、この詩編に歌われている主（神様）に守られて生きる確かな人生に、私たちを導き入れてくれるかけがえのない出会いです。