2016年7月10日「福音を告げ知らせる使者」（ルカ9章1-9節）
１２人の弟子たちは、これまでイエス様のもとで、そのお働きを見て、弟子としての訓練を受けてきました。その彼らが、いよいよ神の国を宣べ伝え、病人を癒すために派遣されていきます。１２人の弟子たちは、イエス様からあらゆる悪霊に打ち勝ち、病気を癒す力と権能を授けられて出かけて行き、村から村へと巡り歩きながら、至るところで福音を告げ知らせ、病気をいやしました。初めて遣わされた弟子たちによって、神の恵みの御支配が来ていることが、力強く証しされたのです。
イエス様は、弟子たちを遣わすにあたって、「旅には何も持って行ってはならない。杖も袋もパンも金も持ってはならない。下着も二枚はもってはならない」（３節）とお命じになりました。宣教の旅に出るときには、何も持たずに出かけなければならないのでしょうか。ルカ２２章３５節以下では、イエス様は使徒たちに、「しかし今は、財布のある者は、それを持って行きなさい。袋も同じようにしなさい」と言われました。９章と逆のことをお命じになっています。ということは、イエス様がここで初めて宣教に向かう弟子たちに、何も持たずに行くように命じることで、彼らに伝えたいことがある、ということになります。それをここから聞きとっていきましょう。
何も持たずに出て行った弟子たちは、どこで食べ物や泊まる場所を得るのでしょうか。４節に「どこかの家に入ったら、そこにとどまって、その家から旅立ちなさい」とあります。イエス様は、旅先で彼らを支え、家に迎え入れてくれる人が与えられる、そしてその人の家を拠点として宣教するようにとおっしゃったのです。しかしそのような人が誰もいない町もあることも示唆されました。イエス様は弟子たちに、そのような町にいつまでも留まる必要はなく、時を見計らって出ていくように指示されました。その町を出ていくときには、抗議のしるしとして、足についた埃を払い落としなさいと言われました。伝えられた神の恵みを受け入れるか拒否するかということは、人の救いに関わる大切なことです。その緊張感がこのイエス様の御言葉から伝わってきます。
１２人の弟子たちは、何も持たずに出かけて行き、旅先でも、自分の持ち物によるのではなく、主がそこで与えてくださる支えによって旅を続けることになります。宣教のために、彼ら自身は何も持たずに行くのです。では、彼らには一体何があるのでしょうか。それは、イエス様が授けてくださった権能です。あらゆる悪霊に打ち勝ち、病気をいやす権能です。この権能によって、彼らは神の国の福音を伝えることができるのです。彼らが持っているものではなく、主の御力によってだけ、彼らはその使命を果たすことができる、そのことを徹底して伝えるために、イエス様は彼らに、何も持たずに出かけなさいとお命じになったのです。自分の持ち物や能力に頼ろうとする心を徹底的に取り除き、ただイエス様に授けられた権能だけを頼りに宣教する経験を、イエス様は弟子たちにさせようとなさったのです。
弟子たちの宣教活動やイエス様のことは、当時この地域を支配していたヘロデの耳にも入りました。彼は、人々がイエス様について、ヨハネが生き返ったと言っていることを聞いて戸惑いました。かつて自分の罪をはっきり指摘したヨハネを、彼は捕え、殺してしまいました。そのヨハネの生き返りとうわさされる人は、いったい何者だろう、会ってみたいと思いました。自分の思い通りにならない人間が自分の支配下にいることを知り、どんな人か尋問したいと思ったのです。ヘロデはここで、あらゆる悪霊に打ち勝ち、病を癒すイエス様の権能に、神様の御力があると信じて従おうと思ったわけではありませんでした。ヘロデはこの後イエス様を殺そうとします（１３：３１）。やがてヘロデはイエス様に会うことになります（２３：６～１２）。そのときヘロデは、イエス様が何かしるしを行うのを見たいと望みましたが、彼の前ではイエス様は何もなさいませんでした。結局ヘロデは、イエス様が救い主であられることを、知ることはありませんでした。
一方イエス様から授けられた権能だけを頼りに宣教の旅をしていた弟子たちは、神様の素晴らしい力が働くのを目の当たりにしました。イエス様の権能に服して従う弟子たちに、神様はその御力を豊かに示してくださったのです。私たち人間には、その持ち物にも能力にも、人を救いへと導く力はありません。十字架と復活のキリストを信仰の目をもって見つめ、主の恵みを信じ、より頼む時、主は福音宣教の使命を果たさせて下さいます。主を信じる人を起こし、主の教会を建て上げてくださるのです。