2016年7月31日「イエス・キリストとは誰か」（ルカ9章18-27節）
教会に来て聖書の話を聞くようになると、イエス・キリストという方が、その中心であることに気づかされます。求道していく中で、イエス様というお方が一体誰なのかということが大きな問題になってきます。
この問いに対しては、いろいろな答え方があります。イエス様は偉大な宗教家、差別や抑圧と戦った人、隣人愛を説き実践した人、と多くの人たちに言われます。これらはとても好意的な見方です。
イエス様の時代も同様でした。イエス様が弟子たちに、「群衆は、わたしのことを何者だと言っているか」とお尋ねになると、弟子たちは答えました。「『洗礼者ヨハネだ』と言っています。ほかに、『エリヤだ』という人も、『だれか昔の預言者が生き返ったのだ』という人もいます」（１９節）。これらはいずれもイエス様のことを高く評価していて、とても好意的な見方です。洗礼者ヨハネは、イエス様をユダヤの人たちが待ち望んだ救い主として指し示した人ですし、エリヤや預言者たちはやがて来る救い主について預言して語った人たちです。
イエス様は群衆のこれらの答えを踏まえた上で、今度は弟子たちに問いかけられました。「それではあなたがたはわたしを何者だと言うのか」（２０節）。
弟子たちはイエス様のことを、「いったい、この方はどなたなのだろう」（８：２５）と疑問に思っていました。しかし今度は、この方（イエス様）から、「わたしを何者だというのか」、と問いかけられたのです。キリスト教信仰に導かれるとき、私たちはこの場面の弟子たちと同じように、イエス様から、「わたしを何者だというのか」と問いかけられます。イエス様は私たちひとりひとりを、この問いに答えるようにお招きになるのです。イエス様からの問いかけにペトロは、「神からのメシア（神のキリスト）」と答えました。これは「あなたはメシアについて語る預言者ではなく、彼らが預言してきたメシア・救い主そのお方です」という意味です。メシアについて預言した人たち、という群衆の答えとは、決定的に違う答えです。
預言者だという当時の群衆にしても、偉大な宗教家だという現代人の考えも、どんなに高く評価しても、結局どれもイエス様を、私たちと同じ人間のひとりと見ている点は同じです。人間を超えたお方だとは思っていないのです。しかし「神のキリスト」と見るペトロの答えはイエス様を、預言者たちが指し示してきた救い主そのもので、人間を超えたお方だと告白しているのです。そして、教会がイエス様を信じる理由もここにあります。イエス様こそ人間を超えたお方、人間を超えた御力で私たちを救って下さるお方だと信じて、イエス様をわたしの救い主として礼拝しているのです。
イエス様は神のキリストとして、どのようにして私たちを救ってくださるのでしょうか。ペトロの弟子たちを代表しての信仰告白に続いて記されるのは、イエス様の受難・復活の予告です。イエス様は必ず多くの苦しみを受け、長老、祭司長、律法学者たちから排斥されて殺され、三日目に復活することになっていることを、ここで初めて予告されました。このときの弟子たちには、まだその意味が理解できませんでしたが、ここにはイエス様が十字架で私たちの罪と死を背負い、復活によってそれらに打ち勝ち、私たちに罪と死から解放された新しい命を与えてくださることが初めて語られています。だからこのお方こそ、人間の力を超えた御力で、私たちを救ってくださる救い主なのです。
それからイエス様はこう言われました。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、日々、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい」（２３節）。
イエス様を信じて従う道は、決して平たんなものではありません。むしろ苦難が伴います。ひとりひとりにイエス様に従うための苦労・苦難があり、それが日々背負う「自分の十字架」と言われています。多くのキリスト者たちが、迫害の中で信仰を守る苦難を経験しました。また、信仰生活をしている中で、自分自身の罪に気づかされ、罪と戦うこともあります。主日礼拝をささげるためには日曜日の時間をあけるように生活を整えなければなりません。自分の信仰生活について、周囲の人々の理解をなかなか得られないこともあります。また教会を支えようとするときの苦労もあります。キリスト者であることを止めて、自分の思い通り生きた方が楽なのではと思えることもあるかもしれません。しかしそのような自分を捨ててキリストに従う中で、私たちは確かにイエス様が私たちを愛し、慰め、導いてくださっていることを経験させられていくのです。
弟子たちはイエス様に従って共に過ごす中で、イエス様の御力と権能をまのあたりにしてきました。嵐を静めるイエス様に出会い（８：２２～２５）、悪霊に打ち勝ち、病を癒すイエス様の権能を行使し（９：１～６）、五千人養いの奇跡では、尽きることのないイエス様の恵みを持ち運びました（９：１０～１７）。そのようにしてイエス様に従う中で、このお方は何者か、という問いを深められ、あなたこそ神のキリストです、という告白へ導かれていったのです。私たちも、イエス様を礼拝し、聖書の言葉に聞き従う中で、イエス様の尽きることのない恵みにあずかり、イエス様の御手の中で朽ちることのない命に生きる幸いを経験しながら歩むようにされているのです。
ペトロがした「イエス様が神の子であり救い主です」、と言う告白はペトロ自身の感性や能力によって得られたのではありません。イエス様が弟子たちのために祈って下さったことから生まれたものです（１８節）。今イエス様は、私たちひとりひとりのために祈って下さっています。その上で、「あなたはわたしを何者だというのか」と問いかけておられます。この問いかけに、「あなたこそ救い主キリストです。私が従うべきお方です。あなただけが私を、生きる時も死の時も、その後も、傍らにあって支えて下さる命の主です」、そう答えて歩んでまいりましょう。