2016年8月14日「十字架に立つ信仰」（ルカ9章37-45節）
ペトロ、ヨハネ、ヤコブの３人は、山の上で栄光に輝くイエス様のお姿を見せていただきました。その間、山の下では残された弟子たちが厳しい現実に直面していました。弟子たちは、一人息子に取りついた悪霊を追い出して下さるように、ある父親に頼まれたのですが、できませんでした。山の上で栄光に輝くイエス様とは対照的に、ここではイエス様の弟子たちの無力な姿が描かれています。
１２人の弟子たちは伝道に遣わされて、実際に悪霊を追い出す働きをしてきました（９：１～６）。彼らは戻って来て、自分たちの行ったことをみなイエス様に告げました。きっと自分たちが悪霊を追い出したり病を癒したりしたことを、驚きまた喜んでイエス様に報告したのでしょう。その後彼らは、イエス様が群衆に神の国について語り、癒しを行われるのを見て、５０００人養いの奇跡を経験しました。このように弟子たちは伝道での成功体験を経て高められた状態のままで、悪霊につかれた人の前に立ったのです。弟子たちは自分たちがどのようにすれば悪霊が追い出され、人が癒されるのかを経験してきました。だから自分達はここでも悪霊を追い出すことができると思ったのでしょう。しかし今度はそれが出来なかったのです。
弟子たちはイエス様を信じていましたが、自分がやれば伝道の成果を上げることが出来るかのように思ってしまったのです。そのためにイエス様に真実により頼むことから離れ、自分たちで問題を解決しようとして、何もできずにたちすくんでしまいました。イエス様は弟子たちのそのような不徹底な信仰を深く嘆かれ、「なんと信仰のない、よこしまな時代なのか」（４１節）と言われたのです。
弟子たちの信仰の問題は、イエス様の受難予告の時にも現れます。イエス様はこの後悪霊を追い出され、２回目の受難予告をなさいました（４４節）。しかし弟子たちにはその言葉が分かりませんでした。１回目の受難予告（２２節）も理解できていませんでした。弟子たちの心は、栄光のイエス様と、悪霊を追い出し、病を癒すことができる自分たちの姿に向いていたからです。それは今日の私たちに当てはめるなら、栄光に輝く教会とキリスト者の姿を追い求める心です。そのために弟子たちは、多くの苦しみを受け、人々から排斥されて殺されるイエス様など、とても受け入れることはできませんでした。またそんな恐ろしいことは考えられませんでした。弟子たちには、栄光に輝くイエス様しか受け入れることができなかったのです。
４３節には、人々が、イエス様が悪霊を追い出されたのを見て神の偉大さに打たれたことと、イエス様がなさったすべてのことに、皆が驚いたことが記されています。彼らは奇跡を行う輝かしいイエス様を称賛し、喝采を送っています。彼らも十字架に死なれる救い主など受け入れることはできません。弟子たちと、イエス様のなさったことに驚いている「人々」は同じ心なのです。そしてその心が、イエス様を十字架へと追いやったのです。自分たちに都合の良い栄光に輝く救い主しか受け入れない心が、十字架の救い主イエス・キリストを排斥するのです。
イエス様は弟子たちに２回目の受難予告をされました。その言葉は「人の子（イエス様）は、人々の手に引き渡されようとしている」（４４節）です。イエス様は人々に捕えられ、十字架にかけられるのです。その「人々」というのは、イエス様のなさったすべてのことに驚き、悪霊を追い出すイエス様を見て神の偉大さに心を打たれている「人々」のことだということができます。
この時弟子たちにはイエス様のおっしゃったことが分かりませんでした。しかしやがて復活の主に出会い、聖霊を受けたとき、彼らは栄光に輝くイエス様しか受け入れられない自分たちの不徹底な信仰のために、主が十字架におかかりになったこと、しかし主の十字架と復活によって自分たちの救いが確かなものとされたことが分かるようになりました。主の十字架と復活にこそ、自分たちの救いがあることが分かったのです。
イエス様は、「いつまでわたしは、あなたがたと共にいて、あなたがたに我慢しなければならないのか」とおっしゃいました。これは弟子たちに愛想をつかし、付き合いきれないとおっしゃっているのではありません。我慢するというのは、忍耐をもって背負う、ということです。「いつまで」に対してご自分で答えておられます。その答えは「人々の手に引き渡されるまで」です。イエス様への信頼が不徹底な弟子たちを、イエス様は十字架の死に至るまで徹底的に忍耐して背負い、復活の命へと救い出してくださるのです。イエス様は「あなたの子どもをここに連れてきなさい」とおっしゃいました。主は、私たちが抱える重荷を、十字架の死に至るまで、徹底的に忍耐し背負って下さいます。だから主イエスに望みを置くとき、私たちは歩き続けることができるのです。
「主に望みをおく人は新たな力を得 鷲のように翼を張って上る。走っても弱ることなく、歩いても疲れない。」（イザヤ４０：３１）