2016年10月23日「主イエスが教える祈り」（ルカ11章1-4節）

イエス様が祈り終えたとき弟子の一人が、「主よ、ヨハネが弟子たちに教えたように、わたしたちにも祈りを教えてください」と願いました。これに答えてイエス様が教えてくださった祈りがここに記されています。バプテスマのヨハネとその弟子たちは自分達の独自の祈りを持っていたと言われます。だからイエス様の弟子たちも自分達独自の祈りの言葉を持ちたいと思ったのでしょう。弟子たちが願ったのは、単に祈りの言葉を教えてくださいということではありせん。彼らはこれまで祈るイエス様の姿を見てきました（６：１２、９：１８、９：２８）。弟子たちはそのお姿から、天の御父とイエス様との間に親しい愛と信頼の関係があることを感じ取っていたのです。特に１０章２１－２２節の祈りには天の御父とイエス様との信頼関係がよく表れています。「すべてのことは、父からわたしに任せられています」とありますが、この言葉にはイエス様への神様からの全面的な信頼がはっきりと表現されています。そしてイエス様は神様に対して「父よ」という親しみを込めた呼びかけをしておられます。これらは弟子たちには驚きだったに違いありません。彼らは自分達もそのような祈りの世界に生きたいと願って「わたしたちにも祈りを教えてください」と言ったのです。ですから弟子たちにとってここで教えられているとおりに祈ることは、神様との深い愛と信頼の関係に入れられることを意味したのです。同じようにわたしたちも主が教えてくださったように祈ることによって、神様との愛と信頼の関係に招き入れられるのです。

天の御父を信頼して生きていることをはっきり表すのは「父よ」、という神様への呼びかけの言葉です。これは「アッバ」という、まだ言葉を覚えていない幼子が父を呼ぶような親しみのこもった言葉です。神様に背を向けて生きていた私たちはそのままでは神様に親しく近づくことは出来ません。主イエスが私たちの罪を背負って十字架に死んでよみがえってくださらなければ成り立たない呼びかけです。私たちが神の子とされたことを信じて「父よ」と神様に呼びかけることが出来ることは、神様との愛と信頼の交わりが回復されていることを示します。イエス様を信じるということは、自分が神様に愛されていることを信じることです。「父よ」と呼びかけることは、神様との愛と信頼の関係を生きることになるのです。

苦しみや悲しみ、不安や孤独の中で、「父よ」と呼ぶことが出来ることの意味はとても大きなものです。神様から守られていることが感じられないとき、神はいない、助けてくださらないと感じるとき「父よ」と呼ぶことによって神様との交わりが回復します。神様が共にいて支えて下さる恵みに目が開かれるのです。

最初の祈りは「御名が崇められますように」です。聖書が指し示す父・子・聖霊なる神様こそ本当の神様として自分自身と人々からほめたたえられるようにと祈ります。私たちと世界中の人々の心が開かれて、目の前にある神様の恵みと御力とを、一層あざやかに信じることが出来るように祈るのです。

神様がほめたたえられるとき、そこには今までなかった神様の恵みが注がれていることがわかります。これまで神様に背を向けていた人間が、神様の御言葉に聞き従うようになります。その人に、神の支配が実現するのです。罪と死の支配から解放されてイエス・キリストの愛に支配された人は神様をほめたたえるようになります。この神の支配を「神の国」と言います。この神の恵みの支配が私たちひとりひとりと世界中の人々に及びますようにと祈ります。これが「御国（神の支配）が来ますように」という祈りです。

神様の恵みの支配は魂の問題だけではありません。物質的な支えにも及びます。日々の糧を神様に委ねつつ、神様から必要な糧を与えられる日々の積み重ねを経験することが出来るようにと祈ります。日々の糧を得る日常生活もまた、天の御父との愛と信頼の中で営まれるのです。それが次に教えられた「わたしたちに必要な糧を毎日与えてください」という祈りです。

次に続くのは「わたしたちの罪を赦してください、わたしたちも自分に負い目のある人を皆赦しますから」という祈りです。この祈りで求めるのは、私たちが神様に罪を赦されて生きるということです。それが隣人の罪を赦すことにつながっていきます。私たちが隣人の罪を赦したからそれを条件に神様から罪を赦されるということではありません。この後「わたしたちを誘惑に遭わせないでください」と祈りますが、私たちは自分で「いけない」と思いながら繰り返し罪を犯してしまう弱さをもっています。いくら決心しても完全に罪を犯さず生きることは出来ません。それにもかかわらず神様は罪深い私たちを決して見捨てることはありません。何度でも罪をお赦しくださいと祈ることが許されているのです。この祈りによってわたしたちは、自分がどれほど大きな赦しを与えられているかを心に刻まれます。そのときに私たちは隣人を赦すように導かれていくのです。

同時に私たちは罪との戦いの中で弱さを露呈してしまう者ですから、誘惑に合わせないでくださいと祈ります。誘惑に遭うとき、私たちは神様に助けを求め、神様の許に逃げ込めばよいのです。このようにイエス様が教えてくださった祈りの視野は、私たちの身と魂のすべてに、また全世界への神の御支配に及びます。主が教えてくださった祈りによって神様は私たちを、天の父との愛と信頼に満ちた交わりへと招き入れて下さるのです。