2016年11月7日「神の力に守られて」（ルカ11章14-23節）
「イエスは悪霊を追い出しておられたが、それは口を利けなくする悪霊であった。悪霊が出ていくと、口のきけない人がものを言い始めたので、群衆は驚嘆した」（１４節）。
「悪霊を追い出す」などと言いますと何か昔の現実離れした話のように思われるかもしれませんが、聖書では私たちを神様から引き離そうとする意志を持った存在として「悪霊」が登場します。悪霊は私たちが神様に愛されていることを信じられないように、そして神と人を愛することが出来ないように誘惑します。私たちは自分の心を自由に操ることができません。それが悪いことだと分かっていても人をねたんだり、憎んだり、高ぶったり、あるいは冷たい心を人に向けたりするのです。私たちは悪の誘惑を完全に退けることが出来ない弱さを持っています。
イエス様がそのような私たちを捕え、神様の愛で満たしてくださるとき、私たちは罪の力から解放されます。自分が神様に愛されていることを知って喜び、神と人を愛するように変えられていきます。イエス様が悪霊を追い出すというのは、そのようなイエス・キリストの救いの恵みを表しているのです。
イエス様の悪霊追放の奇跡を見た群衆の中には、イエス様が悪霊の頭によって悪霊を追い出しているのだという人がいました。そこでイエス様はまず、悪霊の頭によって追い出しているのなら、悪霊同士が内輪もめしていることになり、悪霊の国が成り立たなくなるからそのようなことはあり得ないと反論されました。さらに、当時ユダヤには悪霊祓いをする魔術師のような人々がいましたが、イエス様が悪霊の頭によって追い出しているというのなら、ユダヤの悪霊祓い師たちも悪霊の頭によって追い出していることになってしまいます。
このように反論された後、イエス様は口のきけなかった人に起こったことをたとえで語られました。「強い人」は悪霊を表しています。屋敷の中には悪霊に捕えられた人が閉じ込められていますが、強い人が武装して守っているために誰も助け出すことができません。そこへ「もっと強い人」イエス様が襲ってきて、悪霊に打ち勝ちその武装を解き、屋敷に捕えられていた人を助け出し、御自分の許に取り戻してくださったのです。捕えられていた人はイエス様によって悪霊の支配から神の御支配のもとに移されたのです。それがイエス様による悪霊追放の出来事なのです。
「しかし、わたしが神の指で悪霊を追い出しているのであれば、神の国はあなたたちのところに来ているのだ」（２０節）とイエス様は言われました。「神の国」は「神の支配」と言い換えることができます。イエス様は私たちがどんなに深い闇の中にいてもそこに来て下さって私たちを捕え、復活によって永遠の命へと引き上げて下さいました。これまで主イエス・キリストによる神の愛を知らずに生きて来た人が、イエス様に愛されていることを知ったとき、その人の所に神の国が来たということが出来るのです。神様から離れ、罪と死に捕えられていた私たちは、その重荷を主イエス・キリストが十字架ですべて背負い、死んで復活されたことにより、罪の赦しと永遠の生命を受けて、神の支配に生きる者とされたのです。
イエス・キリストの愛を知って生きる私たちですが、神様から引き離そうとする誘惑に絶えずさらされます。その誘惑と戦い、神様を信頼して生きるためにイエス様はここで祈ることを教えてくださいました。１１章１節から祈りについて語られ、１３節には「天の父は求める者に聖霊を与えてくださる」というイエス様の御言葉が記されています。聖霊なる神様は私たちをキリストに結び合わせ、神様の恵みを見る信仰を養ってくださいます。「御国が来ますように」（２節）という祈りは、神様の恵みのご支配を見て歩むことが出来ますように、という祈りです。
祈りへの神様からの答えは、願った通りのこともあります。しかしそういう時ばかりではありません。祈り願いがかなうまで長い年月待たされることもあります。また願ったのとは違った形で祈りが聞かれることもあります。さらに、願ったことについて与えられないこともあります。願った道が開かれず、別の道へ導かれることもあります。そのような形で神様の答えが示されることさえあるのです。そういう意味では祈りには厳しい面もあります。しかしそれでも神様は私たちを愛しておられます。そこには神様を愛し信頼するための信仰の戦いが伴います。そうやって私たちは神様が自分の人生を守り、導いておられることを知らされていくのです。神様との深い愛と信頼の関係を与えられていくのです。イエス様はここで私たちを、そのような信仰の戦いへと招き入れてくださるのです。