2016年12月11日「クリスマスを待ち望む」（イザヤ8章22節-9章6節、マタイ4章12-17節）

「ひとりのみどりごがわたしたちのために生まれた。ひとりの男の子がわたしたちに与えられた」（イザヤ９：５）。これはイエス様がお生まれになるより七百数十年前に預言者イザヤを通して語られたキリスト誕生を予告する言葉です。

当時イスラエルは北イスラエルと南ユダに分かれていました。本来南北合わせて神の民イスラエルですが、南にエジプト、北にアッシリアという大国にはさまれていました。そんな中、北イスラエルはアラムという国と同盟を結び、アッシリアに対抗しようとしました。そのために南ユダにも同盟に加わるよう誘いましたが南ユダの王アハズはこれを断りました。そのため北イスラエルとアラムの同盟軍が南ユダに攻め込んできたのです。彼らはユダに別の王を立て、傀儡政権をつくろうとしました。そのためユダの王アハズも民もたいへん動揺しました。この時アハズのもとに預言者イザヤが神様から遣わされ、北イスラエルとアラムの企ては成功しない、そして神様に信頼するようにと伝えたのです。しかしアハズはイザヤの言葉に耳を傾けませんでした。彼には外交上の策があったのです。それはアッシリアに助けを求めることです。軍事大国アッシリアに頼り、神様に頼ろうとしないアハズ王に対してイザヤはアハズが恐れている北イスラエルとアラムの王の領土は捨てられ、さらに今度はアッシリアが南ユダにとって脅威となることを予告しました。これらの事情がイザヤ書７章１～１７節に記されていますが、１４節にはキリスト誕生が予告されています。

「それゆえ、わたしの主が御自ら　あなたたちにしるしを与えられる。見よ、おとめが身ごもって、男の子を産み　その名をインマヌエルと呼ぶ。」「インマヌエル」は「神が私たちと共にいます」という意味の言葉です。

ユダの王アハズの要請に応えたアッシリアの王は、アラムを滅ぼし、北イスラエルに侵入し、北から順にその領土を占領しました。この時まっさきに蹂躙されたのが８章２３節に記されている地域、ゼブルンの地とナフタリの地、ガリラヤ地方でした。北イスラエルにはサマリアを中心としたわずかな山岳地帯が残されたのみでした。こうしてアハズがアッシリアの強力な軍事力に頼ることで、アラム・イスラエル連合軍の脅威は南ユダから去りました。しかしその代わり、助けてくれたアッシリアには貢を納めなければならなくなり、さらに国内に、アッシリアの偶像宗教を取り入れることになりました。事実上、アッシリアの属国になってしまいました。そして今度はアッシリアが脅威となっていったのです。

このように神様に頼るより周囲の軍事的な力関係のみに頼って生きていくアハズ王、そして一連の流れの中で、町々は荒れ果て、神様の導きと支えを見失っていく様子が描かれています。それは神様から離れた人間の歴史とそこに生きる人々の姿が描かれているということができるでしょう。それが８章２１～２３節に記された御言葉です。

「この地で、彼らは苦しみ、飢えてさまよう。民は飢えて憤り、顔を天に向けて王と神を呪う。地を見渡せば、見よ、苦難と闇、暗黒と苦悩、暗闇と追放。今、苦悩の中にある人々には逃れるすべがない。」これはインマヌエル（神がわたしたちと共にいてくださる）を失った人間が造り出す世界の姿です。そして先に述べた出来事の中でまっさきに踏みにじられた地域の名が挙げられます（２３節）。

ところがここでこれらの地域がまず挙げられ「栄光を受ける」と語られます。そこから「闇の中を歩む民は、大いなる光を見　死の陰の地に住む者の上に、光が輝いた」（９：１）と続き、５節の「ひとりのみどりごがわたしたちのために生まれた」というキリスト誕生の予告へと続いていくのです。まっさきに闇におおわれた所、そこから神様の救いが始まる、と聖書は語ります。闇の只中に、神様からの救いの光が入ってくるのです。それがイエス・キリストによって実現するのです。そのことがマタイ福音書４章１２～１７節へつながります。ここでは荒野の誘惑の記事に続いてイエス様が「ゼブルンとナフタリの地方にある（ガリラヤ）湖畔の町カファルナウムに来て住まわれた」ことが記され、これがイザヤを通して言われていたことが実現するためであったと言うのです。アッシリアによってまっさきに踏みにじられて闇に覆われてしまった場所、そこに救い主イエス・キリストが住んでくださったのです。こうして神共にいますというインマヌエルの回復が、最も暗い所から始まります。

主イエス・キリストはこの世の最も低い所に生まれ、最も暗い所に住まわれ、やがて十字架に死なれました。「苦難と闇、暗黒と苦悩、暗闇と追放」（イザヤ８：２２）、これらはすべてイエス様ご自身がその身に背負われたものです。主は十字架の死において、神に見捨てられるという闇を背負い、しかも闇に打ち勝ってそこから復活され、神共にいます（インマヌエル）を回復してくださいました。だから私たちはこのお方を自分の救い主と信じるとき、どんな闇の中でもインマヌエルを回復し、しかも二度と失うことはないのです。

今なおこの地は苦難と闇、暗黒と苦悩が満ちています。その中で私たちは生きています。しかしその中で私たちは主イエス・キリストに結ばれて、確かな光に支えられてこの世を生き、平和と和解に生きる道を教えられ、永遠に神と共に生きる者とされるのです。