日本キリスト改革派豊明教会

2017年3月12日「時を見分ける」（ルカ12章54-59節）

イスラエルでは地中海がある西に雲が出れば雨になり、砂漠がある南から風が吹くと暑くなります。人々はこれを体験的に知っていて、天候を見分けることができました。そのようなイスラエルの群衆に向かってイエス様は、「このように空や地の模様を見分けることは知っているのに、どうして今の時を見分けることを知らないのか」と言われました。あなたがたは天候を見分けるように生活に関わるさまざまなこと、経済や健康、世の中の情勢などを見分けることは出来るのに、今の時を見分けることを知らないとイエス様は言われたのです。

イエス様がここでおっしゃりたいことを聞き取るために、少し前の所からの流れを振り返ります。１２章１３節以下に描かれた金持ちは、空や地の模様を見分け、財産を築くことに成功した人だと言えるでしょう。しかし彼は自分が神様のものであり、神様の御支配の中に生かされていることを見分けることをしませんでした。イエス様が見分けなさいと言われる「今の時」とは、神様に心を向ける今の時なのです。金持ちはそれをしないまま命を取り上げられ、神様の審判に立たされることになるのです。その時がいつ来るか分からないから目を覚まして備えていなさいというのが３５節からの主の御言葉でした。

このことを踏まえて５７～５９節のたとえを読むと、「あなたを訴える人」というのはまず神様のことです。聖書ではよく罪を借金・負債にたとえます。今の時を見分けることをせず、神様に背を向けて生きることは、神様への負債を積み重ねることになります。それは自分を訴える人と一緒に、その人への負債を増やしながら裁判所へ向かっているようなものです。しかも裁判所に着くのは今すぐかもしれない、という切迫した状況です。今すぐにでも和解しないといけない。イエス様はそのような神様との関係の中にいるのが今の時なのに、なぜ自分から進んでそれを判断しないのか、とおっしゃっているのです。

これは私たち人間の魂の奥深くに刻まれていることではないでしょうか。人は人生の意味や死について考えることができます。そして死の向こうにある何かを感じて怖くなるという感覚を持っています。だから巷には天国と地獄とか、閻魔様の話が作られるのではないでしょうか。この感覚がどこから来るのかを、聖書は明らかにしています。私たちは神様に造られ、しかも神様に愛されていることを喜びながら生きるように造られました。これは人間だけが神様から与えられた特別な祝福です。しかし人は自ら神様に背を向けて生きるようになりました。イエス様はそのような人間の姿を、訴える人と一緒に役人の所へ行く人の姿にたとえたのです。このままではそこで裁判を受け、返しきれない負債のために牢獄に入れられてしまうのです。

そのような緊迫した状況の中にいるにもかかわらず、天気には関心を向けるけれども神様との関係に無関心な有り様を、イエス様は「偽善者」と呼んだのです。このような激しい言葉を使われたのは、私たちが「今の時」を見分けて救いにあずかることを、イエス様が熱心に望んでおられるからです。「あなたを訴える人と一緒に役人のところへ行く」途上にある緊迫した状況が、イエス様の目にははっきり見えているのです。イエス様はそれを知ってほしいと言っておられるのです。イエス様は私たちの救いについて真剣です。その真剣な愛がこの箇所で、そして１２章全体の主の御言葉にほとばしり出ています。

「言っておくが、最後の一レプトンを返すまで、決してそこから出ることはできない」（５９節）。神様に対する負債は、たとえ１レプトンでも生きている間に返すことはできません。役人の所へ行く途中に返すことは出来ません。どんなに世の中の状況をうまく判断して成功したと思える人生を歩み、善いことをしても、依然として死とその向こうにあるものを変えることにはならないからです。永遠の救いによって平安を得ること、それは人間の手の届かないことだからです。神様との関係をそのままにしていてはどうにもならないのです。どんな小さな罪であっても、聖なる神様の前では、永遠の刑罰に価します。イエス様は、そういう私たちの負債をすべて身代わりに背負って返すために、私たちの所に来てくださいました。そのためにどんなにご自分が苦しまなければならないか、それをイエス様はご存じでした。その苦しみが、十字架へ向かうイエス様の言葉に現れているのです。

イエス様は、私たちのために神様の裁きを受けてくださり、最後の１レプトンまで支払ってくださいました。私たちが神様の裁きにおいてまったく負債がないものとして扱われ、罪の赦しと永遠の生命をいただくために、イエス様は苦しみの御生涯と十字架の死を引き受けてくださいました。肉体的な苦しみ、人々から裏切られ捨てられる苦しみ、そしてなによりも神様から見捨てられるという神の刑罰を、その苦しみの一切を私たちの身代わりに引き受けてくださったのです。イエス様は十字架の上で祈られました。「父よ、彼らをお赦しください。自分が何をしているのか知らないのです」。神様を知るまでは、私たちも自分が何をしているのか知らない者でした。そのような私たちのために主は十字架の苦しみの中から祈り、私たちをその祈りの中にとらえてくださったのです。私たちはこのイエス様の祈りによって信仰の目を開かれたのです。

私たちは自分を訴える人と一緒に歩いているような者でした。そのままではその裁きで返しきれない負債の責任を問われるものでしかありませんでした。しかし主がそれをすべて背負って下さったことを知り、私たちがイエス様によってはじめて救われた者であることを知ることが出来ました。私たちの人生が、主イエス・キリストの十字架と復活によって、救いの完成に向かうものとされたことを知ることが出来ます。訴えられるためではなく永遠の天の御国に迎え入れられるために歩く者とされたのです。そのことを信じたときに、信仰による深い平安と喜びが根底にある、そのような人生を生きるようにされるのです。主によって確かなものとされた私たちひとりひとりだからです。