2017年8月27日「神の国が来る」（ルカ17章20-37節）
「神の国はいつ来るのか」というファリサイ派の人々の疑問は、当時のユダヤ人共通の思いでした。当時ユダヤはローマ帝国の支配下にありました。聖書の神を知らないローマの支配から解放されて、かつてのダビデ・ソロモン時代のような国を待ち望む気持ちがあったのです。
主イエスはこれに対して「見える形では来ない」とお答えになりました。ファリサイ派の人々の質問には、見えるような形で神の国を把握したい、という願いがありました。神の国は神の支配のことです。神の支配は、人間の目で見て判断し、把握できるようなものではない、と主イエスは言われたのです。今日も、神様が世界を支配しておられるというなら、なぜこのような出来事が起こるのか、という疑問を多くの人が持ちます。けれども神様のなさること、神様のご支配は、私たちの思い通りになることではありません。神様は、人間が判断できる範囲の中でしか動けないお方ではないからです。
主イエスは「実に、神の国はあなたがたの間にあるのだ」と言われました。まだ神の国が来ていないと思っているあなたがたファリサイ派の人々の間にあると言われたのです。では一体どこに神のご支配はあるのでしょうか。それは、主イエス・キリストに神のご支配があるということなのです。主イエスがこの地上に来てくださいました。それはイエス・キリストによって神のご支配が実現するためです。神の支配が来ていないように見えるこの世の現実の只中に、主イエスは来て下さいました。ここに神の国がすでに来ています。今、イエスを救い主と信じる私たちがいて、礼拝を行う教会がある、こういう仕方で神の国は私たちの間にあるのです。
ファリサイ派の人々は主イエスを救い主だなどとは思っていません。むしろ殺そうと考えていました。そして最後には主イエスを十字架につけてしまいました。しかし主イエスが来て下さることにおいて、神の御支配はすでに来ているのです。
続けて主イエスはご自分についてきた弟子たちに、この世の現実の中で神の国の実現を一日でも見たいと願うが見ることが出来ない、そういう時を歩むことになるとお語りになりました。さらにやがて神の国が誰の目にも明らかな形で完成する再臨の事をお語りになりました。その時にはキリストが目に見える形で来られ、神のご支配が誰の目にもはっきり分かる仕方で表されます。聖書が語るこの終末は、キリストが再び来られる時であり救いの完成の時でもあります。私たちひとりひとりの救いの完成、そして新天新地が完成し、私たちがそこで永遠に生きるようになる時です。そこではもはや私たちには死もなく涙もありません。完全に神を喜ぶ喜びに満たされます。
しかし今はそれがはっきりと見えない心細さを感じながら生きるときです。だから大きな出来事が起こるたびにこれが再臨のしるしではないかと思ったりするのです。しかしそのように再臨のしるしは何かと考え、右往左往するのは正しい信仰の在り方ではありません。すでに神の国は自分たちの間に来ており、やがてその完成の時が必ず来ることを信じ待ち望みつつ日々を歩めばよいのです。
私たちは真剣にキリストの再臨を待ち望んでいるでしょうか。ここで主イエスは旧約聖書を紐解いて神様の審判の時を真剣に意識するように警告されます。ノアの時代の人たちも、ロトの時代のソドムの人たちみな、神様のことなど忘れ、神の御支配など考えないで、今の生活がずっと続くかのように思い、自分達の求めるものを満たすことに没頭していました。そのような中で日々の生活に想い煩い、それに心を奪われて生きていたのです。 そのような心は、イエス・キリストを自分の生活から排除する心です。それはファリサイ派の人々が主イエスを排除して十字架に追いやった心につながります。私たちは生まれながらにして神様を排斥し、自分が神になろうとする心を持っています。そのような私たちが神の御支配にあずかるために、主イエス・キリストが十字架にかかり、私たちの罪と死を背負って死んで下さったのです。私たちは、主の十字架に心を向けるとき、自分の罪を背負ってくださった神の愛の支配にあずかります。
主イエスは私たちに、ノアの時代の人々、ロト時代のソドムの人々のようであってはならないと警告しておられます。またロトの妻のように、逃げてきたソドムを振り返るようであってはならないと言われます。自分が築いてきたもの、自分の持ち物、それらによって自分の命を得ようとするのではなく、主イエスの復活の命によって永遠の命を与えられることを信じなさいと言われます。私たちには主を信頼して待つことを求められます。神のご支配はすでに私たちの間に実現しています。しかしまだ完全ではありません。しかし必ず完成するときが来るのです。
私たちはイエス・キリストにおいて神の国が「すでに」来たことと、再臨、救いの完成が「いまだ」来ていない、その「すでに」と「いまだ」の間の時を生きています。すでに来たキリストの十字架と復活の贖いによって救われ、そしてまだ来ていないキリスト再臨を確かなこととして待ち望みながら、その緊張関係の中を生きています。そのことを忘れてはいけないと、主イエスは私たちを力強く促しておられます。
「しかし、主を待ち望む者は新しく力を得、鷲のように翼をかって上ることができる。走ってもたゆまず、歩いても疲れない。」（イザヤ４０：３１、新改訳）