2018年7月1日「十字架に引き渡される主イエス」（ルカ23章13-25節）
ここに登場する人々は激しく、そして執拗にイエス様を十字架にかけるようにピラトに要求しました。彼らは激しくイエス様を拒絶したのです。マタイ福音書にはピラトが「人々がイエスを引き渡したのは、ねたみのためだと分かっていた」ことが記されています（マタイ２７：１８）。イエス様は神の愛を語り、そのとおりに実行なさいました。その中でイエス様は、ユダヤの指導者たちが律法の専門家でありながら神の愛を理解していないこと、愛に欠けたそのあり方を指摘してこられました。しかも民衆はイエス様を慕っていました。律法学者などの指導者たちにとってイエス様は本当に邪魔な存在だったのです。イエス様に対して「神を冒涜したという正義感もあったでしょうけれど、そういう神の民としての大義名分に隠れてもっと深い所では、極めて人間的な感情が彼らの中にあったのではないかと思われます。
このあと十字架上のイエス様の祈りが記されます（ルカ２３：３４）。受難週の礼拝で聞いた御言葉です。そこでイエス様は自分を十字架につけている人々のために神様の赦しを祈っています。これはまさに「あなたの敵を愛せよということ徹底的に実行する祈りです。しかしイエス様を十字架につけた人々は、自分たちがイエス様のとりなしの祈りを必要としているなどとは思いもしませんでした。自分がイエス様に祈っていただいて赦していただかなければならない罪人だ、などとは思えないのです。そしてこの祈りから、私たち自身が、これほどまでの愛に生きることが出来ないことを認めざるを得ないことに気づかされるのです。このことを私たちは受け入れることができるでしょうか。そのように私たちの罪を明らかにする者を、何とかして排斥したいのではないでしょうか。それが、イエス様を十字架になんとかしてつけようとしたユダヤの民衆の心なのです。
そしてこの民衆の声がここで勝ちました。勝ったからイエス様は十字架へと引き渡されたのです。それはイエス様の、そして神様の敗北の場面のように見えます。しかし本当にそうでしょうか。この場面で人々の声が勝ち、ピラトは妥協し、不公正な裁判が行われ、不当にもイエス様は十字架に引き渡されました。しかし民の声が勝ったように見える出来事によって、イエス様は十字架に引き渡され、私たちの罪を背負うという神様の救いの御計画が実現していきました。ですから勝利したのはご自身の計画を実現させた神様の方なのです。理不尽な訴えが、もはや筋道もなにもない感情的な叫び、狂乱するような叫びがまかりとおり、ピラトが不当なさばきをする中で、イエス様はここに現れた神の愛を受け付けようとしない人間の罪を、すべて引き受けておられ、神の赦しを私たちにもたらすために、十字架へと向かってくださったのです。ここに現れたのは、ねたみのために真実の愛が拒まれ、みにくい感情によって正義が歪められ、不当なさばきが横行する悲惨な世の姿です。このような人間の悲惨を、主は十字架において背負い、私たちを救いへと導いてくださるのです。
これは２０００年前のイエス様と、イエス様を十字架につけた人々との間の出来事だと思っている間は、私たちはイエス様が神であることを否定し、必要ないものとして消し去ろうとしていることになります。その意味では、ここで執拗にイエス様を十字架につけろと叫ぶ民衆の姿は、ユダヤ人ということではなくて、イエス様の愛を執拗に、そして激しく拒むすべての人間の姿であるといわなければなりません。
イエス様を拒絶し、そのようにして神に敵対することが、人間を神に見捨てられる悲惨な事態に追いやることであるということを、人間の方は何とも思っていなくても主が誰よりも深刻に受け止め、私たちが背負っている罪の悲惨を背負い、十字架へと向かってくださいました。私たちの罪と、それに見合う神の聖なる怒りとさばきの深刻さ、その両方からの、とてもはかりきれないほどの重荷を背負っている、それがイエス様の十字架の御苦しみの本質です。だから主の十字架は、ここにいる一人一人のためです。それは私たちひとりひとりが神様から赦され、罪と死の悲惨から救い出されて永遠の命を得るためなのです。そのために主イエス・キリストの無限の愛が、私たちに向けられています。それは私たちひとりひとりが、主イエスを十字架につけた罪人であることを自覚し、主の愛を受け入れ、神による喜びと平安を知るためなのです。イエス様が十字架に引き渡されたのは、私たちの罪のためです。イザヤ書の御言葉はそのことを語っています。
「彼が刺し貫かれたのは わたしたちの背きのためであり 彼が打ち砕かれたのは わたしたちの咎のためであった。 彼の受けた懲らしめによって わたしたちに平和が与えられ 彼の受けた傷によって わたしたちはいやされた」（イザヤ５３：５）。
このように読んでいきますと、私たち自身が、本当は十字架にかけられなければならないのに、イエス様のおかげでそれを免れたバラバであったということができるのではないでしょうか。