2018年9月16日「キリストの祝福と昇天」（ルカ24章50-53節）
ルカ福音書の最後には、キリストの昇天が描かれています。主イエスは天に上げられ、弟子たちの目には見えなくなりました。主イエスは弟子たちを祝福しながらも、離れておしまいになったのです。弟子たちはこれまで主と一緒にいることを切望していました。しかし今ここで、主イエスが目に見える形で共にいる時間は終わったのです。それなら弟子たちは意気消沈してしまったのでしょうか。そうではありませんでした。弟子たちにはこれまでなかったような大きな喜びと礼拝と神賛美が起こったのです。
弟子たちはイエス様に対して誤った期待を抱いていました。そのために主の十字架の死につまずき、希望を失ってしまいました。弟子たちは、イエス様が死んでしまったからもう終わだと思っていました。しかし主イエスはそのような弟子たちのことをすべて知っておられました。主イエスが十字架で神に見捨てられる死を死なれたのは、その彼らの抱えていた絶望を、御自身が背負うためだったのです。そこから彼らを救うために死んでよみがえられました。だから主にあって生きる人は、復活の主から死んでも終わらない永遠の祝福を受けながら歩むことができるのです。
５０節、５１節に記される主イエスの祝福は、死を克服し、死に打ち勝ったお方からの祝福です。十字架に死に、葬られ、陰府にくだり、復活された方の祝福です。そのお方が手を上げて語った祝福なのです。しかもこの祝福は、主が天にあげられる時に語られた祝福でした。ですからこの祝福を受ける人は、天につながる祝福を受けたことになるのです。弟子たちにはこのことが分かったのだと思います。だからここで主の祝福を受けた弟子たちは、大喜びでエルサレムに帰り、絶えず神殿の境内にいて、神をほめたたえたのです。この「大喜びで」は、「大きな（偉大な、グレイトな）喜びと一緒に」という意味です。
これは「イエス・キリストとは誰か」、を知ることと一つに結び合われています。ここで彼らは「イエスを伏し拝んだ」とあります。「拝んだ」ということは、弟子たちがイエス様を礼拝の対象としたことになります。このお方が誰であるかに目が開かれ、単に「復活のイエス様」、というだけでなく、このお方がさきほど述べた救いを、自分たちのために成し遂げてくださったということに目が開かれた、ということです。弟子たちは「ナザレのイエス」から、「わたしの主イエス・キリスト」という理解に導かれました。その時彼らは神をほめたたえたのです。
ここでクリスマスの出来事を思い起こすことができます。主イエスがお生まれになったとき天使が羊飼いたちに告げた言葉が「大きな喜びを告げる」（２：１０）でした。イエス様が地上に来てくださったことが大きな喜びであることがルカ福音書のはじめのところに記されていました。そして同じルカ福音書のおわりには、復活の主の昇天の時、弟子たちは大きな喜びをもってエルサレムに帰り、神殿の境内にいて主をほめたたえていたことが記されています。キリストの誕生と昇天、福音書のはじめと終わりに「大きな喜び」が記されているのです。主が地上に来られ、そして天に昇られていく、ルカはその福音書の最初と最後に主イエスをめぐって大きな喜びを語っています。クリスマスで天使によって告げられた大きな喜びが、主の御生涯、受難・葬り・陰府くだり、復活、昇天を経て弟子たちのものとなって実現しました。この後、直接主を見ないで過ごす時代に生きる私たちに、天につながる確かな祝福に生きる恵み、大きな喜びを与えてくださったのです。
今日の神殿にあたるこの教会で、私たちはこれまで主イエスを拝してルカ福音書の御言葉に聞いてきました。私たちの罪と悲惨、悲しみや苦しみ、それらを私たちよりもっと深く、もっと厳しく知り、背負ってくださり、永遠の命へと私たちを導いてくださっている主キリストによって与えられる大きな喜びを、私たちは与えられたのではないでしょうか。そこで確かにこのお方により頼み、主の晩餐に与って来たのです。私たちにはなお、試練や祈りの課題が与えられています。その中で「主よ共に宿りませ」と言って主に祈り、主に訴え、そして主をほめたたえてきました。そうやって私たちもまた、心を燃やされて来たのではないかと思うのです。
ルカ福音書の最初と最後の大きな喜びを今述べました。そして今度はルカ福音書の途中に記された「主が語られた大きな喜び」を思い起こします。「言っておくが、このように、悔い改める一人の罪人については、悔い改める必要のない９９人の正しい人についてよりも大きな喜びが天にある」（１５：７）。そして私たちは、迷い出た人の帰りを待つ神様の憐れみ、はらわたがゆさぶられるほどの神様の痛みを知らされました。ルカ福音書に聞きながら過ごす間に、私たちの教会に受洗者が与えられました。私たちは主イエスが語られる「天にある大きな喜び」を共にしてきたのです。そしてなおこの喜びを共にしたいと切なる願いをもって祈り続けています。私たちはルカ福音書が描き出す神の救いの御業に、確かに捕らえられ、引き込まれて生かされているのです。